実験手法と数値解析法の高度な融合

数値解析に関する関する知見が深まってきたものの,実験の重要性は相対的に低くなるものではなく,逆に複合構造技術や制震デバイスなどの新たな技術開発に伴い,ますます実験手法への要求は高まり,従来の構造分野で実施されていたような静的実験を中心とする体系から,動的挙動,応答を再現する高度な実験体系へと展開してきている.

2005年には世界最大の三次元振動台であるE-ディフェンスの稼働が始まった.ほぼ実大の構造物を実際の地震加速度で震動させることができる振動台実験は理想的な単体実験であると言えるが,このようなE-ディフェンスを用いた実験は何度も行えるものではない.応募者はこのE-ディフェンスにおける橋梁耐震実験研究実行部会のメンバーとして,実験内容やモデルの選定,及び実験を行う立場にあるが,E-ディフェンスでしかできない実験と大学においてできる実験,また共同体としてできる実験等を勘案しながら,E-ディフェンスにおける実験後をにらんだ計画を考えている.現在E-ディフェンス後に求められているものの一つが,実験・数値解析単体で解決できる問題領域の境界にある技術であると考えている.

一般に実験を主たる手法として用いている研究者は,高度な解析手法についての知見は少なく,逆もまた然りである.しかしながら,応募者が目指す,より良い土木構造の追求・創造のためには,地盤など,構造躯体を取り巻くシステムの影響を組み込んだ検討が不可欠であり,土木構造のように大規模となると,E-ディフェンスといえども単一の手法では検討が困難な問題である.そこで実験手法・数値解析法を高度に組み合わせる必要があり,この目的に向けた一つのアプローチとして,応募者は,分散地震応答実験フレームワークの開発を通し,点在する実験拠点,計算拠点を結ぶための方法論を提案している.今後の研究においては,提案しているフレームワークを動的実験へと拡張するための検討を行い,静的・準動的・動的,また分散実験等,さまざまな実験形態に対応できるよう検討することである.ここでは制御分野における成果も取り入れた検討を進めるとともに,その方法論を広く社会に還元し,構造(実験)分野研究全体のボトムアップを図っていきたい.