土木構造計画論

土木構造物は高度なエンジニアリングの集合体であるとともに,公共物としての機能を有する構造体である.明治期以来,欧米の技術を取り入れることで急速な社会資本の充実を実現し,今日の我が国の基礎を形づくることを可能としてきたが,現代社会が高度化し多様化するニーズの中で,社会基盤整備においても,量から質への転換が強く求められている.また,土木構造物の建設事業者の多くが官から民へと移行したことに伴い,新たな視点による土木構造物の設計・計画の方法論が必要となってきたことは疑う余地はないところである.もちろん,それは合意形成や国土経営等を含む極めて広範な概念であって,現在各方面で活発に研究が進められているが,これらは全て,より良い構造物をつくる方法論として必要となる知識である.

土木構造物は建築物に比べて特に構造自体に重きが置かれているところに特徴があり,今後も構造の重要性は普遍であろう.すなわち将来においてもエンジニアが全体計画において重要な役割を持つことは間違いない.ただし忘れてはならないことは,構造力学を満足し,コストが安い構造物が良い構造物である,という単純なものではないことである.逆に景観に優れている構造が良い構造物というものでもない.より良い土木構造物をつくるためには,構造に対する知識はもちろん,交通・都市計画,施工や監理,維持管理,環境も含めた俯瞰的視点を有するエンジニアの存在が不可欠である.構造計画は,建築学においては建築設計・計画にこのような俯瞰的視点を与える重要分野として確立されている.といって,それがそのまま土木構造物に適用できるものでもないであろう.だが,現在の土木構造教育の体系が,必ずしも,そのような俯瞰的視点を与えるものとなっていないこともまた事実である.各種技術の専門化,高度化が進むに従って,専門の細分化が進むことは必然であるが,将来において創造的な土木構造物を建設するためには,個々の専門技術の高度化とともに,横断的な知識の取得も不可欠である.

このような現状認識のもと,エンジニアリングを主としながらも各種技術を紡ぐ資質を有する「アーキテクト」としての技術者をシビルエンジニアとして捉え,特に構造的な側面に焦点を当てながら,シビルエンジニアリングによる構造計画の考え方を模索する,構造分野における新たな方向性について検討を深めていきたい.このテーマは取り組み方を含み未だ模索中であるが,2006年より土木学会構造工学委員会に小委員会である「シビルエンジニアによる構造計画を考える小委員会」を立ち上げ,委員長として,官民学を横断する組織により検討を行った.その成果の一部は,「共通示方書」に組み込んだ.土木構造における知識・技術の縦糸と横糸を紡ぐ方法論を検討しながら,「より良い土木構造の追求と創造」を目指していきたい.