合理的な構造システムの追究

「より良い土木構造の追求と創造」を目指す研究計画の大目標として掲げているが,そのためには「何が良いということか」を明らかにする必要がある.現在,この「良い」を表す指標として,コストのみが強調されすぎているきらいがあることは残念なことである.私は「合理性」を指標の候補と考えている.合理的であるとは,説明可能である,ということであり,公共構造物を対象とする土木分野においては,特に重要な視点であると考える.またここで言う「構造」とは,単に構造躯体のみを対象とするものではない.躯体が直接支持される地盤構造はもちろん,土木構造が影響を及ぼす周辺環境を含む,全体システムを意味している.こうした全体システムに対する合理的構造の追求の中で,自己の専門テーマの一つとして,地震工学からのアプローチを試みたい.

橋梁構造は土木構造物の代表的なものの一つであるが,その上部構造は主に自重などの鉛直荷重に対して設計されている.これに対し,地震力は主に横向きの荷重であり,橋脚構造がその対象となる.地震国である我が国では,特にこの地震力を構造設計において重視することが特徴的といえ,構造物の耐震安全性を向上するための技術として,従来の耐震に加え,免震・制震技術などが積極的に採用されるようになってきた.しかしながら,どちらかというとこれら技術は従来構造の枠組みで付加的に適用されてきたものであり,積極的に新たな構造形態の創造に影響を与えてきたとは言い難い.しかしながら,例えば耐震性や走行性,耐久性の向上を図るため,桁の連続化が合理的な構造として進められてきているが,これに伴い,各橋脚が荷重を分散して負担するよう,橋脚のプロポーションにも影響を与えてきた.また,この桁の連続化は,免震支承など,要素技術の発展に支えられ,免震化は橋脚断面を細くできる効果も有している.また設計で考慮する地震荷重は極めて大きなものであるため,構造形態に及ぼす影響も大なはずである.すなわち地震工学における技術は,新たな構造形態を創造する有力な原動力となり,これを意識することで,単なる要素技術から構造形態全体へ影響を与える技術へと発展する大きな可能性を持っていると考えている.

構造システムとしての合理性を追求しようとする際,障害となるのが「地盤と構造物」,「鋼構造とコンクリート構造」といった線引きである.これらは既に互いに確固たる学問・技術体系が完成されていることが大きな要因であろうが,この境界を越えた活動は多くはない.地震工学においては,構造工学や地盤工学」といった工学分野のみならず,地震学などの理学分野の知識,視点も求められる.すなわちより良い土木構造を追求する上で,地震工学者は従来の枠組みをまたがる大きな貢献ができると考えられ,これは私の目指すところである.

このテーマに関する長期的目標・計画は以上の通りであるが,短期的な計画としては,基礎・地盤構造を含む橋梁構造の地震応答性状に関する検討を進める予定である.ひとつは従来より構造物単体の視点による合理的耐震構造として提案してきたアンボンド芯材補強RC構造の応用である.本構造は,地盤・基礎との組み合わせにおいても,アンボンド芯材の適用による断面縮小効果に伴う基礎の小型化など,基礎−構造系としての合理化を図る余地は多く残されている.次に,線状構造としての橋梁構造の地震応答性状である.建物と異なり,橋梁は一般に線状につながる構造であり,橋脚を支持する地盤構造は異なっている.地盤震動問題とあわせ,線状構造の応答特性を把握し,橋梁システムとしての合理化について検討したい.