鈍ということ

以前,京大先生図鑑の取材で自分を漢字一文字で例えると,という質問があり,「鈍」と答えました.「鈍」は確かに負の語感を持ちますが,不確定性の高い社会を生き抜く知恵だと思っているんですよね.「複雑系の科学」ではなく「鈍感系の科学」を模索しています.研究でも,鈍構造という技術開発を進めています.「鈍」という単語は負の印象が強いが故に,この言葉が持つ強さを逆手に取って,関心を引きたい気もあります.
鈍感は英語でinsensitiveとも言いますが,接頭辞in-は否定なので,本来,insensitiveの和訳は不感のはずです.鈍感と不感の決定的な違いは,鈍感は「反応している」ということ.動的システムの性質なのです.辞書では出てきませんが,(良い意味の)鈍感の英訳はsemi-sensitiveがよいと思ってます.接頭辞semi-は半分,中間を意味します.semiconductorは半導体.導体と絶縁体の中間の性質をもつ物質で,我々の世界を大きく変えてくれました.敏感と不感の中間の性質をもつ鈍感(semisensitive)を共感できる人が増えることが,善き社会の構築につながると信じています.

また,ある系が外乱の影響によって変化することを阻止する仕組み,または性質のことをロバストネスといいます.これを和訳すると,かつては頑健性が多く使われていましたが,しっくりこないと思う人が多い(私も)のか,最近はロバスト性やロバストネスとカタカナで使われることが多い.でも,日本語にできないと,真の意味で理解・納得したといえないと思っているんですよね.みんな悩んでいるのです
ソニーコンピュータサイエンス研究所の北野宏明氏は,生命システムのもつロバストネスに着目していますが,サイエンスライター竹内薫氏との共著「したたかな生命」という一般書(いい本です)では,ロバストネスを「したたかさ」と訳しています(文中ではロバストネスのみ使ってますが).でも,私は「したたか」より「鈍感性」の方がシステムの意味を表しているのでより良いと思ってるんですよね.研究発表でも「ロバストネス(鈍感性)」とアピールしています.

四半世紀たって

今から25年前の1995年1月17日は、私が京大土木の耐震工学研究室の在籍していた大学院一回生の冬。一年前に橋梁の地震時性能に関する卒業論文を提出した耐震工学者の卵でした。激しい揺れで起こされ、テレビを付けるもほとんど情報がありません。その中で報道された震度分布を見ると、大阪などが震度4であった中、最大震度を示していたのが京都で震度5。京都大学がほぼ南端となる花折断層が動いたと思いました。

気がつくと、いつの間にか震度分布に神戸が追加されていて、震度6を示しています。混乱。動いたには花折断層ではない?明るくなるにつれ、神戸周辺で大火事が発生、建物の被害も出ているようだ、というニュースを見て研究室に向かい、まずは転倒防止対策をしていた本棚は無事。落ち着いてテレビを付けると目に飛び込んできたのが、高速道路高架橋の倒壊でした。絶句。でも、まだ他人事でした。

数日後、研究室の教授より、土木学会第二次調査団の手伝いをするように指示を受けました。誰でもよかったのでしょうが、卒論、修論〆切間際の四回生、M2は動けません。唯一の日本人のM1だった私が消去法的に選ばれたのでしょう。1月22日、倒壊した神戸の地に立ちました。そこから数日、鉄道被害調査チームの補助として現地調査。移動中、目の前の道にビルが横倒しになっている異常な光景。でも、改めて探しても、その写真が無いのです。撮っていない。フィルム時代で撮影枚数に制約があった時代。鉄道被害調査のためにフィルムを残しておこうと思ったのだと思いますが、恐れらくそれだけでは無い。異常ではあるけれども、神戸の街がどこもそういう状態だったので、あえて撮る、という行為に至らなかったのだと思います。

数日の調査を終え、京都駅に到着した途端、異様な光景に恐怖を感じました。どの建物も「壊れていない」という異様な光景。体がガタガタ震え、今まで如何に自分が異常な状態にいたかを自分ごととして認識した時でした。

あれから25年、当時所属していた研究室の教授として日本、世界の耐震工学をリードする立場にいます。耐震の特殊性、難しさを知っています。自分ごととして責任感も持っています。その上で目指すのは、地震国ならではの美しい構造物、善き社会です。きれいごとを言うな、甘ちゃん、と言われようとも。土木工学者ですから。

新年(というには遅いけれど)にあたり

令和2年の正月休みが長かったこともあり、1月6日からの一週間は、仕事始めというような悠長なものではなく、いきなりフルスロットルの一週間でした。

とはいえ、成人の日を含む3連休で時間があったので、研究室HPの情報を更新。そして放置状態だったこのHPをもっと活用しようと思います。そもそもblogの設定が分からず、投稿しても表示されなかったから諦めていただけなんだけど。ここは個人ページなので、トップページを投稿ページに切り替え、Facebookより自由に、色んな思いつきのメモとして。

昨年5月より古巣の耐震工学研究室に戻り、改めて構造ダイナミクス研ならではの耐震研究の方向性を思案し続けています。その中で自分らしさをどう組み込むか。動的数値解析が一般となっている時代に、大学らしい耐震研究とは?耐震工学が生み出す美とは?やりたいことはたくさんあります。今年もよろしくお願いいたします。

(遅い初詣での大豊神社の狛鼠)

2018年6月18日に強い揺れを感じました

2018年6月18日,大阪府北部で震度6弱を観測する地震が発生しました.京都でも震度5強と,近年ではまれに見る強い揺れを感じました.家族の中には電車に閉じ込められたものもいて,緊張の毎日が続いています.京都ですら,このような状態ですから,震源に近い地域は尚更.一刻も早い日常への回復を祈念します.

私ができることとすれば,この地震による土木インフラへの影響を記録すること.6月19日に一部ですが影響が大きかった大阪府北部に調査へ行き,調査をはじめています.随時更新しますが,特設ページも開設しました.